独断と偏見によるおすすめ映画

ジャンルはいい加減

悪魔のいけにえ(アメリカ映画)

ホラー映画の傑作
今まで見て面白かったホラー映画を3つ選べと言われたら間違いなくこの作品が入ってきます。ちなみにあと二作は「サイコ」と「ブレインデッド」。
僕は良い映画の条件として笑えることが重要だと思ってるんですが、この映画はホラーなのにも関わらず笑えてしまう。
笑いと恐怖が表裏一体だと誰かが言っていましたが、この映画を見ればその理由がおわかりいただけるでしょう。
 
 
笑えるシーン(ネタバレ注意)
ホラーコメディ的シーンの1つ例を挙げると、仲間を皆殺しにされたヒロインがレザーフェイスと鉢合わせし、走って逃げ出すシーン。
暗い藪の中を甲高い悲鳴をあげながら走るヒロインと、なにも言わずただチェーンソーを振り回しながら追いかけるレザーフェイス
両者の走力は逼迫していて、いつ追いつかれても不思議ではありません。実際あと少しで背中にチェーンソーの歯が届くというくらい接近されてしまいます。
しかし藪の中なので、木の枝が邪魔。小柄なヒロインなら屈んで避けられる木の枝を、律儀にその都度立ち止まり伐採してから走り出すレザーフェイス。いやそんな大して太くもない木の枝なんだから、そのまま無理やり突破して捕まえちゃえよと見るものは思います。でも彼は立ち止まって伐採し、安心して通れるようになったらまた走り出します。その間もヒロインは叫びっぱなし。まるで植木職人の周りを走り回る狂人の図。ヒロインの命に関わるシーンなのに、ハラハラするどころかシュールで笑えます
 
 
監督の才能
そしてこの映画、ただのエンターテイメントにとどまらない、ラストシーンの美しさにも注目してほしいです。何か激しい感情に突き動かされチェーンソーを振り回し踊り狂うレザーフェイスの姿は芸術の域に達していると思います。監督自身、あのシーンは気に入ってるとのこと。
朝焼けの中に響き渡るチェーンソーの金属音が、親愛の兄を失い、己の役目を全うできず、心が張り裂けそうになった彼の慟哭のように聞こえるのは私だけでしょうか。
 
 
本編より面白いかもしれないメイキング
この作品のメイキングを見たので印象的だった撮影エピソードを挙げておきます。以下を踏まえるとより一層本作を楽しめること間違いなし

レザーフェイス役の役者は役作りのために無断で精神病院に侵入し、精神病患者の挙動や振る舞い方を勉強した。

レザーフェイスの代名詞であるチェーンソーは、何か使える道具はないかとホームセンターを物色していた監督が見つけ、これだ!と思った。

・演技にリアリティを持たせるために映画の中と外で役者の関係性をリンクさせた。つまり車椅子の彼は常に輪の外に置かれ、レザーフェイスに至っては他の俳優と顔を合わせることもなく本番で初対面。だからこそのあのリアクション。

・最初の犠牲者がレザーフェイスにハンマーで頭を殴られるシーン。予定では殴る振りだったのに、勢い余って本当に殴ってしまう。幸い大事には至らず。

・骨のオブジェは本物の動物の骨を使用。
 
・冒頭のアルマジロの死体は、美術の人がロケハンしたとき道で死んでたアルマジロの死体を持ち帰り、防腐処理を施し、剥製にしたものを使っている。監督が車に轢かせようとしたけど止めた。

・予算の都合でレザーフェイス役の衣装は1着しか用意できなかった。気温40度に及ぶ灼熱のテキサスで彼は着替えることができず、悪臭を放つ彼の近くに誰も寄りたがらなかった。

・ホウキでばしばし叩かれるシーンは、叩く役の人が良い人すぎて強く叩けず、怒った監督によってテイク7まで撮り直される。結果、ヒロインの身体は青あざだらけに。

・ヒロインの口に突っ込まれたボロ雑巾はそれ専用に準備されたものではなく、撮影場所にたまたま落ちていた本物のボロ雑巾。

・晩餐のシーンは撮影が上手くいかず、27時間ぶっ続けでカメラを回し続けた。夜になっても下がらない気温の中、用意された食事は腐り蛆が湧き悪臭を放った。

・ヒロインの指を切るシーンは特殊メイクの予定だったが、スケジュールや予算の都合上折り合いがつかなかったので本当に切った

・晩餐の後ヒロインが窓から飛び降りて逃げ出すシーンでは、ヒロイン役の女優が本当に足を挫いてしまい、あまり速く走れなかった。監督は遅すぎる!とキレた

・トラックに乗って逃げ出せたヒロインが大笑いするシーンがあるが、あれは演技ではなく撮影が終わったことが本当に嬉しかった

・配給会社が見つからず、ようやく見つかったと思ったらマフィアのフロント企業だった。収益はほとんどこの会社に奪われてしまった。ちなみにレザーフェイス役の人はスタッフ何人かと会社に乗り込みギャラの交渉をしたとか。マフィアも怖かったでしょうね。
 
感想
紛れもないホラー映画の大傑作。
低予算を創意工夫でカバーした制作陣のセンスには敬意を抱くしかない。
個人的に気に入ってるシーンはレザーフェイスが初めて画面に姿を表し、すかさずハンマーで男の頭をぶん殴り、重そうな引き戸をピシャ!って閉めるところ。あのシーンだけで有無を言わせない絶望感を表現している。
ほんとすごい映画です