独断と偏見によるおすすめ映画

ジャンルはいい加減

おとなの事情(イタリア映画)

2016年公開のイタリア映画

日本ではあまり馴染みがない現代イタリア映画です。

 僕はイタリア映画って「ひまわり」「自転車泥棒」のヴィットリオ・デ・シーカとか、「道」「8 1/2」のフェデリコ・フェリーニとか、ネオレアリズモの容赦ない作品が個人的には好きなんですが、この作品はそういうイタリア映画の正統系譜って言えるかもしれない部分がちょくちょくあって、僕はけっこう気に入りました。

 

あらすじ

食事会に集まった7人の仲良しは、それぞれの携帯電話をテーブルの上に置き、送られてくる新規メッセージやメール、かかってくる電話(スピーカー)を7人で共有するゲームをやることに。そこから明らかになっていく各々の秘密……。

 

登場人物の嘘と真実(ネタバレ注意)

会話劇がメインかつけっこう特殊なラストを迎える変わった作品なので人によってはなんのこっちゃとなるかもしれません。
なので以下に物語を理解しやすいように7人の秘密をまとめてみます。ネタバレ注意。


ホスト
医者。料理上手。かかってくる電話は貸別荘の予約と娘からのもののみ。

この映画に描かれていることだけで彼を判断すると、妻と娘をとても大切にしている男。特に彼氏の家に泊まっていいか許可を求める娘からの電話に対して、頭ごなしに叱るわけでも、無関心に放任するわけでもなく、まず娘のことを信用して、それから的確な助言を与える。その姿勢は父親の鑑である。こんな親父になりたい。


ホストの妻
カウンセラー。ゲームを提案した張本人。
本人はタクシードライバーと浮気しているが、彼はその場にいるわけだから連絡が来ない、つまり自分は確実に安全であることがわかっていたからこのゲームを提案した。率先して他人の電話に応答するところはかなりゲス感がある。タクシードライバーからプレゼントされたピアスをつけている。


タクシードライバー
遊び人。少なくともホストの妻とタクシー会社の無線係、最低2人と浮気している。後者を妊娠させた。ホストの娘のことをわざわざ母親似だと強調するあたり、実はこいつのタネなんじゃないかと邪推する。


タクシードライバーの妻
元カレから性的な相談を受けていた。主義を変えてまで結婚したのに裏切られた被害者。弱そうに見えて実は強い女性。


無職のデブ
ゲイ。彼氏のことを彼女だと誤魔化している。1人だけサッカーに誘われないなど省られている。


倦怠期のハゲ
セックスレス。きわどい写真を送ってくる若い女と連絡を取っている。


倦怠期の妻
セックスレスフェイスブックで知り合った妻子ある男と連絡を取っている。ノーパンになって出かけろという高度な変態的要求に応えるあたり欲求不満らしい。義理の母親を老人ホームにぶち込もうと画策している。飲酒運転で人を轢いた。

 

 

ラストシーン
おそらく戸惑う人の少なくないあのラストシーンでは、何かのどんでん返しが起きたのか、皆何事もなかったように振舞っているが、あれはゲームをやらなかった場合の7人の関係を描写しているだけで、パラレルワールド、別エンディングのようなもの。真実を知らない方が平和だよというメッセージである。

ゲイはゲイを隠し、仲間内で省られていることを知らない。
タクシードライバーは奥さんの隣に座り、しれっとホストの妻と背徳的なメッセージのやりとりをしている。妊娠を知らせる無線係からの電話はシカト。何も知らないで楽しそうな奥さん。
ホストの妻は自分が浮気してるくせに夫に対して「携帯を見せないのは秘密があるからじゃないの?」などとのたまう。疑われないために先に疑うという高等テクニックである。
倦怠期の妻は帰宅後急いでパンツを履く。夫はトイレで送られてきたエロ画像を見る。


なにも知らない方が幸せなんです

 

感想

イタリア映画ってもう衰退しきっていて、黒澤や小津の去った現邦画界みたいなものだと思ってたんですが、そんな状況でもやっぱりこういう新しい才能は出てくるものなんですね。

撮影はほとんど室内で、予算なんてほとんどかかってなさそうだし、派手なアクションやCGがなくてもこれだけ上質な娯楽作品を作れるんだと証明してくれています。

製作委員会や芸能事務所に制約されてつまんない作品を作るくらいなら、新藤兼人がかつてやっていたこの路線に活路を見出すべきなんじゃないかなと、僭越ながら、才能ある監督志望の方々に言いたくなりました。